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技術開発課の渋江さんに新製品KSC-1300Bチプスターの開発秘話をお伺いしました。
新製品開発のきっかけは、粉砕機市場での製品の“没個性化”でした
-新製品KSC-1300Bチプスターを開発したきっかけを教えてください。
まずは粉砕機の歴史を簡単にご説明します。樹木の粉砕機を30年ほど前に開発して以来、一部の果樹農家さんを相手に細々と粉砕機を売っていました。果樹農家さんは、樹木の剪定が必須です。剪定した枝葉の処理のために粉砕機を使っていらっしゃいます。このころは多くの農家さんが粉砕機には頼らず、自分たちで野焼きをして枝葉を処分していました。
しかし、10年くらい前に環境面の配慮から野焼きが禁止になったのをきっかけに、粉砕機の需要が高まりました。当社以外のメーカーも続々と粉砕機の開発を始め、市場が活発化しました。競争も激しくなっていく中で、当社が作った粉砕機が没個性化していくのを感じたのです。そこで、これではいかんと思い、元々カルイの粉砕機が持つ特徴を打ち出した製品を作ろうと決めました。
-没個性化といいますと、どのような点でしょうか。
市場が活発化して、いろんなメーカーが粉砕機を作るようになると、ある傾向が業界内で流行します。例えば、元々粉砕機はハンマーで樹木を叩いて粉々にするタイプのものが主流でしたが、現在はナイフで切削(せっさく)して樹木を細かくするタイプのものが流行ってるんです。ナイフ式の方が、ハンマーより効率が良いですから。当社も、元はハンマー式の粉砕機から始まったのですが、ナイフ式の粉砕のみを開発していた時期もありました。ただ、ナイフ式はハンマー式と比べてずっと繊細なんです。ナイフで粉砕するわけですから、その刃の切れ味が一番大事です。粉砕するものの中にちょっとした金属片や石ころがまぎれていたら、刃こぼれしてしまいます。切れ味を維持するためにメンテナンスもマメに行わなくてはいけません。一方、ハンマー式は、ハンマーで叩いて粉砕するので、多少の異物にはびくともしません。
作業効率がいいナイフ式が、市場だけでなく社内でも流行っていましたが、はたして、粉砕機がこんなに繊細なものであっていいのかという疑問がありました。粉砕機は農業の現場で使うもの。粉砕する樹木に多少石ころがまざっていても、問題なく使えるくらいのラフさを持っていないと。多少雑に扱っても壊れない機械であるべきだろうと思いました。同時に、この点がカルイの製品の特徴でもあると私たちは考えています。
没個性化を脱し、「ハンマー型粉砕機」への原点回帰
-なるほど。なぜ「ナイフ一辺倒ではいけない」と思い至りましたか?
あるお客様からの声がきっかけです。6,7年前に、当社で爆発的に売れた製品がありました。ハンマー式のM10という粉砕機なんですけど、これが本当によく売れまして。私たちは“伝説の名機”と呼んでいます(笑)今でもM10を使って下さっているお客様もいます。ただ、やはり一、二世代前の製品なので、新しい製品と比べると多少粉砕速度が劣る。M10を愛用していただいたお客様から「M10をバージョンアップさせたような機械はないのか」という声をいただきました。しかし、その頃は当社ではナイフ式の製品しか造っていませんでした。
そこで、はっと気づいたのです。周りの流行に乗って、効率のみを追い求めるあまり、ナイフ式一辺倒になっていたのではないかと。効率が良いナイフ式ももちろん大事ですが、それだけではない。お客様は他のことも望んでおられることに、そこで気づかされました。
このようなお客様の声を受けて、技術開発課の2人で「ナイフ式に寄り道をせずに、ハンマーM10がそのまま最新の技術を搭載して進化していったらどうなったんだろう…」と考え始め、開発に踏み込もうと思いました。3年くらい前の話ですね。
爆発的に売れたハンマー式”伝説の名機”M10
”効率が良い”と粉砕機の主流を占めた4ナイフ式
始めは否定的だった社内の空気を一変させたゼロ号機
-業界で「効率が良いのはナイフ式」という空気が蔓延している中、ハンマー式への回帰に対して社内の反応はいかがでしたか。
やはりみんな否定的で、批判の方が多かったですよ。「誰が欲しがるのか?」といった声もありました。その頃は、ハンマー式というと「(粉砕速度が)遅い、うるさい、太い枝が粉砕できない」と業界の中で定説のように言われていたので。
しかし、技術開発課の私たちには自信がありました。機械的な話でいうと、ハンマー式の方が理に適っている部分が多いんです。具体的な例を挙げるとあまりにも専門的になってしまうので省きますが、ナイフ式は速度と安全性を追い求めるあまり、多少物理的な法則にさからって無理をしていた部分もあったのです。そういったところを排除して、今持てる技術でM10を進化させたらいい機械になることはゼロ号機を作る前からわかっていました。そして、話だけでは社内の反応がイマイチだということも、わかってました(笑)。だから、話だけでハンマー式への原点回帰を説き伏せようとはせずに、まずはゼロ号機を動かしてみんなを驚かせようとしました。 そして実際ゼロ号機を動かしてみたら、批判的だった社内の空気は変わりましたね。ナイフ式と同じとまではいかなくても、ハンマー式でも早く、細かく粉砕できるのだとわかってもらえました。
粉砕機は、農家の人の使い方も考えて、多少異物が入っても石ころが入っても水がかかっても、そうそう壊れないものが一番です。機械のスタンスとしては、速いけど繊細なレーシングカーではなくて、乱雑に乗りこなせる4WDのジープみたいなのがいいんです。
そうして、ゼロ号機から開発に開発を重ねて、いまのKDC-1300Bができあがりました。ゼロ号機を含めると、5台は試作機を作りましたかね。期間も2年近くかかりました。
開発の苦労点―一つの機能を伸ばすか、全てのバランスが良い製品に仕上げるか
-なにか、開発の中で苦労した点や失敗した点はありましたか?
KSC-1300Bはブロアー(注:粉砕物を排出する長い管のような部分。これがあると、ただ一か所に粉砕物を排出するだけでなく、好きな角度に調節して排出できます。袋を取り付けることもできます。)とスクリーン(注:粉砕物の細かさを調節する網。)が両方ついているという特徴があります。当社の今までの製品は、(他社さんのものでも、)ブロアーかスクリーン、どちらかしか装備されていなかったので。両方装備されたやつは無いじゃん!と。盲点でしたね。それを実用的な面で両立させる点が苦労したところです。コストもかけすぎる機体自体の値段があがってしまいますから。量産するためにある程度簡単に作れて、強度も耐久性もあって、お客様の求める機能がついていて、値段も高すぎず…このような点のバランスを取る必要がありました。
あとは、最新機種ということで粉砕できる樹木の最大直径も一番大きくなっています。直径130mmまでOKです。ですが、実はここだけの話、試作機の段階ではもうちょっと大きい直径のものも粉砕機できていました。せっかく大きいものも粉砕できるのだから、そこを推していこうという意見と、大きさは多少のバージョンアップに抑えて、他の面でもバランスが良いものにしようという意見で分かれたことがありました。
その結果、粉砕可能な最大直径を追い求めすぎるよりは、機械自体がコンパクトだったり、コストが安かったりと、全体的なバランスが良い方を優先することに決まりました。実際に使うのは農家さんですから。ある程度細い枝も太い枝もコンスタントに粉砕できて、かつ安全性が高いものが使う人にとって大事だろうという結論に至り、今のものに落ちつきました。
好きな角度に粉砕物を排出するブロア―です。
粉砕物の細かさ調整ができるスクリーンです。
両方が装備されている製品は従来製品ではありませんでした。 値段と機能のバランスがむずかしかったとのこと。
-反対に、「これがよかった!」という成功要因はありますか?
成功要因ねぇ。やっぱりゼロ号機がちゃんと動いたことですかね。あれで社員の反応が変わりましたから。みんながハンマー式のものに対して抱いていた懸念を逆手にとって、そこを克服できる機械を見せればいい。「おやっ、これは今までのハンマー式とは違うぞ」と思わせたかったので、演出にはこだわりました。
蔓延してしまっているある傾向を覆すのは大変なことだと思いますが、ちょっとプレゼンテーションに工夫を凝らせば、新しい風穴があけられるのではと思います。
機械の性能は、満点。満点が出せなきゃ、お客様に対して失礼!
-今回の新製品開発を通して、ご自分の評価はいかがでしたか。
開発した機械の性能に対してであれば、満点としか言いようがありません。満点と言える製品を世に送らなくては、購入していただいたお客様に失礼ですから。コスト面など限られた条件もありましたが、その中ではベストを尽くしたと自負しています。
お客様へのメッセージ
-それでは、最後にお客様へのメッセージをお願いいたします。
お客様の声は非常に大事です。ですが、お客様1人1人が欲しい!と思う製品をすべて反映することはできません。できるだけ多くのお客様が「欲しい!」「いいな!」と思える道具を作りたいです。機械は道具ですよ。お客様が使いやすいのが一番です。
渋江さん、
お忙しい中ご協力ありがとうございました。
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